◆ 刀談 ◆
この短刀にまつわるお話を聞いてください。桃山時代、幼い子供を連れ、亡き夫秘蔵の左文字(さもんじ)の短刀を売りに出かけた妻は、小夜の中山峠で何者かに斬り殺され、刀まで奪われてしまいました。残された子供は母の仇をうつため、研ぎ師に弟子入りをします。そう、いつか奪われた短刀が研ぎに出されることを信じて…。
それから長い年月が立ちました。ある日、研ぎ師は一人の浪人が持ってきた短刀に「筑州住 左(ちくしゅうじゅう さ)」と銘が切られているのを見つけました。しかも浪人は研ぎ師が何者であるかを知らずに短刀の入手の経緯を漏らしてしまいます。母の仇と確信した研ぎ師は、その左文字の短刀を浪人の腹に突き刺し、見事、仇を討つ事ができたのでした。執念…ですね。
そして、仇討ち話を耳にした戦国武将、山内一豊(やまうち かつとよ)がこの刀を入手。その後、家臣の細川幽斎(ほそかわ ゆうさい)の手に渡り、幽斎は西行法師(さいぎょうほうし)の歌の一節「命なりけり小夜の中山」から、この短刀を小夜左文字(さよさもんじ)と名付けました。命あっての物種、命大事に…です。